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お兄ちゃんが死んでから3年が経った。あたしはいつの間にか、あのときのお兄ちゃんと同じ年齢になっていた。
毎日暇でやることがなかったから、お兄ちゃんの生前の行動を真似るつもりで勉強をしてみたら、これが意外にも性に合っていて、大学に行くつもりなんてなかったのに、あたしは県下一の公立進学校に進学していた。
そんなふうにして迎えた高校1年生の夏、ヒステリーを起こすお母さんが待つ、2人で住むには広すぎる家に帰るのがなんとなくいやで、放課後の教室でひとり、ぼうっとしていたときだった。
「ひとりで、なにしてるの?」
兄によく似ている声がしたと思った。
だがそこにいたのは兄ではなかった。
見ると、背の高い、やさしそうな男子生徒がひとり、あたしを見下ろしていた。兄に似た声で話しかけられると、なんだか懐かしい気持ちになる。
「おうち帰るの、いやなのー」
「ふうん、じゃあ、おれと一緒に遊ぼうよ? おれのこと知ってる?」
「かしわぎ、くん?」
「正解」
兄によく似た声を持つその男子は、当時隣のクラスだった柏木聖くんだった。
人懐こいかんじで、自然に距離を詰めてくる。
へえ、廊下で見かけたことはあったけど、こんな感じのひとだったんだ。
彼は、すこし色素のうすい、茶色がかった髪の毛をあまく揺らしている。すらり通った鼻筋に、眠たそうな二重幅。きれいな人、だと思う。
そのとき、ぬるりと肌先で感じたのは、本能だった。
この人の目、ギラついてる。あたしのこと、たぶん、性的な目で見てる。間違えるはずがない。
「柏木くん、あたしとエッチなことしたいんでしょ?」
「ん、んん? なになに、どうしたの、急に」
「柏木くんの顔に、そうかいてある。どう、当たってる?」
突然爆弾を投下したあたしに対して、柏木くんはびっりしたような顔をした。
「まってよ、急にそんなこと」
「違ってたら、ごめんねえ。でも、そうなのかなってなんとなく思っただけ」
「……」
「一緒に、遊んでみる?」
兄が消えてぽっかり空いた穴を埋める術もなく、ただもて余していた。ちょっとだけ兄の面影がある柏木くんに興味を持ったのは、それを埋めるためだった。
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