抑圧の少年(塩田雪)

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 母の怒鳴り声が響く空間で、俺はなぜか昔のことを思い出していた。  昔はテストの点数が悪いと母親に殴られていた。だけどある時から、母は俺を殴らず、口先だけで攻撃するようになった。  ……ああ、俺がデカくなったからか。俺が中学生になったあたりから、力では敵わないと悟ったからか。  目の前でキンキンと吠える母親の言葉はひとつも胸に響かない。母親に対する感情が、恐怖から面倒に変わったのって、いつからだっけ。 「母さん、落ち着いて」 「雪くんは、いつもいつもそうよね。お母さんの言うことなんてひとつも聞いてくれない。自分のことばっかり。お母さんは雪くんのことこんなに心配してるのに、雪くんにはひとつも伝わらない! ねえ、どうしてなの?」  俺の話を聞かないのはおまえの方だよ。  気がついたら涙が溢れていた。知らない。こんな感情。うざい。最悪。はやく、消えたい。 「きいて。俺の話、聞いてよ」 「うるさい! いつもいつもいつも、お母さんのことなんだと思ってるの!? どうしてそんなにわがままなの! わたしの育て方が悪かったの!? 雪くんのこと、こんなに大事に想ってたのはお母さんだけだった!?」  俺は立ち上がり、母親の頬を平手で打った。  あ、と思った。遅めの反抗期は、こんな最悪な形で発現してしまった。
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