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最初のうちは、随分と丁寧に触れられた。ひとつひとつの反応を確かめるかのように、何度もキスを重ねながら、やさしく触れられた。
そんな行為で満足できるわけのないあたしは、彼のズボンから飛び出た欲望に、みだらに吸い付いた。舌と喉奥をつかって圧を加えてあげると、彼は突然、獣の本性をあらわにした。
この子になら、己の欲望を思い切りぶつけても構わないと、そういう烙印を押されたような気がした。
「ねえ、すこしだけ、乱暴にしてもいい?」
「……いいよ」
柏木くんはあたしの両手を頭上でまとめ上げ、ベッドに力強く押し付けた。
足の指先まで痺れるような、深くて終わりのない快楽を与えるかのように、的確で重い刺激を指先で与えられた。
あたしはこれを知っていた。はじめて兄に恍惚を教えられたあの日、自分でもコントロールの効かない頂へと無理やり押し上げられたこの感覚を。
柏木くんは正方形の個包装を手繰り寄せる。あまり見慣れないそれに、首を傾げた。
「それ、着けるの?」
「そりゃあね」
「あたし、着けてもらったことないかもー」
「……あぶないから、ちゃんと着けてもらいな。おれは責任とりたくないから、着けるよ」
ふうん、そうなんだ。まあ良いか。
柏木くんは正面からあたしに向き合う。顔にかかった髪の毛を払いながら、柏木くんはわらった。
「痛かったら、言ってね」
「言ったら痛くなくしてくれるの?」
「んー、むりかも」
いつまでも自分本位で快楽主義な柏木くんが、ずぶり、欲望をのめり込ませた。
そしてそれを奥深くまで貫かれたとき、気づいてしまった。
「っあ、まって、」
「待たないってば」
「へんに、なる」
「なに。ここ、ぐって押したら変になるの?」
兄に似た声で囁かれると、首筋が、きんと冷たくなった。
かすかに残っていた記憶が警笛を鳴らしていた。この人との行為で得られる感覚のすべてが、お兄ちゃんのものと同じだった。
鼓膜に伝わる音質も、奥深くを突かれる感触も、そして、何を言っても自分の欲望の充足だけを優先する愚かさも。見た目は全然似ていないけれど、目を瞑れば、そこに兄がいるような気分を味わえた。
「セイって、変態だね」
いつの間にか呼び捨てられた下の名前に、疑問すら感じない。ごめんなさい、とひとこと漏らせば、くく、とほのかに笑い声が聞こえた。
久しぶりに、生きている感覚がした。
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