少女(有川静)

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 お兄ちゃんと柏木くんの違いなんて、数え上げればきりがないくらいに多かった。情事の際の振る舞いや感触はそっくりだけど、よく考えれば、見た目も、家庭環境もぜんぜん違っていた。  けれどあたしは、情事のときだけでも兄の面影を感じられることが嬉しかった。目を瞑れば、そこにお兄ちゃんがいた。  だから、だらだらと柏木くんと関係を持ち続けた。  だいたい、2週間に1回くらいの間隔だったろうか。彼はふらり現れて、遊ぼう、という。あたしも時たま、彼を誘った。彼は、あたしから誘うと、ほかの予定があってもかならずあたしの誘いを優先してくれた。  遊ぼう、なんていったって、行き着く先はいつも決まっていた。柏木くんのお家で、白いシーツに沈むことが最終目標で、それは一度たりともブレたことはない。  声質と、感触、仕草、与えられる刺激、そして言葉の選び方。節々から、愛する兄に絆されていたときのことを思い出した。  あたしは、柏木くんじゃなくて、柏木くんを通して見る兄に価値を見出していた。  けれどそれは、ずいぶんと贅沢なことだったらしい。  言ってしまえば、柏木くんはモテるのだ。たしかに、色々な女の子から言い寄られていたし、色々な女の子を抱いていた。  誰にも依存しない彼のスタイルによって、他の女の子はしばしば泣いていた。だから、どの人とも長続きしていなかった。  だが、あたしは泣かなかった。あたしは柏木聖の気持ちじゃなくて、柏木聖の感触を求めていたからだ。  身体だけを求める、あっさりとした関係を好んだあたしは、きっと彼にとって都合の良い遊び相手だったのだろう。柏木くんは、あたしとだけは定期的に遊んでくれた。  柏木くんにはちょっと気分屋なところがあって、気まぐれに乱暴にすることもあれば、優しくしてくれることもあった。そういうところも兄に似ていた。  ひどいときは、噛みつかれたり、首を絞められたり、両手足を拘束されて延々とくすぐられたり、頂きの直前で何度も刺激を止められては焦らされたり、逆に泣いても叫んでも責めを止めてくれないこともあった。  けれど、甘いときはとことん甘かった。  やさしい言葉をくれることもあった。くっつきたがりで、離れてくれないときもあった。脳がとろけるキスを何度も繰り返されると、ぬるま湯に足を浸しているような気分になった。
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