少女(有川静)

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 定期的に柏木くんと身体を重ね合わせる行為だけが習慣として続いているうちに、季節は巡る。  寒くなったかと思えば、今度はまた暖かさが増し、あたしは高校2年生になった。退屈な毎日でも、過ぎ去ればあっという間だ。  2年生になると、たまたま柏木くんとクラスが同じになった。  けれどあたしたちは、表立って仲良くするということもなく、同じ教室にいてもお互いに素知らぬふりをしていた。  柏木くんはもうずっと、いろんな女の子を回しながらのらりくらりと生きていたから、柏木くんのことが好きな女の子たちから余計な恨みを買わないように、彼とはあえて距離を置いていた。  柏木くんも、空気を読んでそうしてくれたに違いない。あたしと柏木くんは共犯だ。みだらに交わった次の日であっても、何事もない顔をして、みんなの前では余所余所しく苗字で呼び合ったりするのだ。  結局、あたしはひとりのままだった。柏木くんはたしかにお兄ちゃんの面影を抱いているけれど、彼自身はお兄ちゃんとは別物だ。あたしはいつまで経っても、世界に取り残されたままだった。  お母さんが最低限の食費を毎月テーブルに置いてくれるようになったから、万引きも、身体を売ることもしなくて済んでいた。悪いことをしなくて済むのは良いけれど、その分、誰かと繋がることがなくなって、ますます孤独感は強くなった。  だけど、柏木くんに執着するのはなんだか違うなあと思っていた。だってやっぱり、柏木くんは柏木くんで、有川絃じゃない。  そんなふうに、たったひとりで生活を成り立たせて、たまに柏木くんに抱かれる生活を送っていた。  そんなある日のことだった。ぐんと気温が上がり、夏のはじまりを予期させるような、そんな日だった。 「セイ、ごめん。さすがに明後日から中間テストだからさ、うち来るの来週にしてもらってもいい?」  ある日の放課後、気まぐれに柏木くんを誘ったら、彼はそう言って、さみしそうにあたしの頭を撫でたのだ。  誘いを断られるのは初めてでびっくりした。どうやら柏木くんは2年生になって、少しずつ将来への意識が芽生え始め、テストの点数を気にするようになったみたいだった。 「……うん、わかったー」  ざんねん、また来週かー。と諦めたところで、不意に柏木くんからキスをされた。  放課後の教室には誰もいなかった。柏木くんは、ちろりちろりと、まるで味見をするみたいに控えめに舌を絡ませてきたが、すぐに唇を離した。 「これ以上やったら止まんなくなっちゃうから、また来週ね。セイもちゃんと、勉強するんだよ」 「はあい、」  柏木くんは最後、もう一度あたしに触れるだけのキスをして教室を出て行った。  今日は、おうちに帰りたくない気分だったのに。どうしようかなあ。
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