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「ユキ? っていうひと?」
「うん。塩田雪くんかなって思うけど。線が細くて、白いスニーカー履いてて、黒髪だし色白だし。おれ、写真待ってるよ。去年雪と同じクラスだったから」
柏木くんはあたしを後ろから抱きしめたまま、目の前で自分のスマホを操作する。
女の子からの連絡がたくさん来ているのが見えてしまった。返してあげたら良いのに。かわいそう。
「ほら、これ」
一度コントローラーを手放して、彼のスマホを受け取る。体育祭のときの集合写真をアップにしたそれを見ると、確かにそこには、図書館の喫煙所で煙草を咥えていたあの人がいた。
「あ、この人だ。これが、ユキくん?」
「うん。しらない?」
ユキ、という名前が気になる。
あたしが昔、売春をするときに使っていた名前と、おんなじだ。あの時はただ適当に、ユキ、と名乗っただけでそれに深い意味はなかったけれど、それにしたって耳に馴染んだ名前だったから、余計にびっくりした。
「……しらない。ユキって、どう書くの?」
「空から降る雪」
「……」
塩田、雪。そうなんだ。この人が、煙草を。
画面を眺めていると、柏木くんがそれを取り上げて、ぎゅう、とあたしを力強く抱きしめた。
「セイ、なんでそんなこと聞いてきたの?」
「この前、図書館で見かけたから、気になったのー」
「あー、勉強してたんだろうねえ」
「勉強?」
あの人は、図書館裏のさびれた喫煙所で煙草を吸っていたはずだ。
「雪、すっごく賢いんだよ。この間の中間テストも、いつも通り1位なんだろうねえ」
頭の中に、ばちばちと火花が散って、何かがあつく燃え上がる感じがした。なんとなく、運命に似ている気がした。
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