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柏木くんは確かにお兄ちゃんにところどころ似ている。声とか、抱かれるときの肌感覚とか、言葉選びとか。
けれど塩田雪くんは、また違う兄の面影を抱いていた。これは、彼と話したことがなくてもわかる。
常に学年首位の成績をキープする、目の死んだ男。寂れた喫煙所で、煙草を吸って肺を満たす、どうしようもなくさみしい人。しかも、銘柄まで同じときた。これを運命と呼ばずになんと言うのだろう。
ねえねえ、あたし、気づいちゃった。塩田くんもきっと、お兄ちゃんみたいに育てられてたのかも。
たとえば、お母さんから1位を取ることしか許されなくて、どうしようもなく毎日をこなして、何かから逃げるように煙草を吸っている、とか。
ただの勘だけどね、あたし、人間のいやなところたくさんしってるから、あたしの勘、たぶん間違ってないとおもうんだよねえ。
ひとり、手元にあるコントローラーをただ見つめていた。ゲームのことなんて全然考えられなくて、ただ手元のボタンを指先で触っていた。
「なんなの。雪に浮気?」
柏木くんがすこし拗ねたような口調で、あたしの耳をくすぐる。耳を起点として全身にぞわぞわした感覚が広がっていった。
良いことを聞いたから、柏木くんにはご褒美をあげないと。
「ちがうよー。ね、もっかい、しよ?」
振り返って、柏木くんの首筋に抱きついた。唇を重ねてあげると、彼はすこしうれしそうな顔をした。
「どうしたの。今日」
「ねえ。柏木くんのこと、多少はすきかも」
「癪だなあ。もっとすきになってくれてもいいのに」
「柏木くんはー?」
彼は乱れたあたしの髪の毛を自然に整えながら言う。
「んー、セイみたいなヤバい女の子とは付き合いたくないけど、セイのことは、そこそこすき」
「変なのー」
「ずっと変だよ。あなたも、おれも」
そのまま抱き上げられ、ベッドに運ばれる。ゲームのコントローラーと、テレビの画面はそのままだ。あたしたちは目先の欲望にしゃぶりつく悪いひとだから、5歳児でもできるお片付けはできないままに、大人じゃないとできないことを求めて、お互いに快楽を吸い尽くす。
柏木くんとの関係に名前はない。
だけど、ベッドの上では曲がりなりにもお互いを愛し合っていたように思う。
だけど今日だけは違った。あたしの頭の中は、塩田雪くんが口から吐き出す煙のイメージに覆われていた。
あの人に近づいてみよう、と思った。
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