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まともに喧嘩をしたことのない俺は、力の加減がわからなかった。弱くやったつもりなのに、思ったよりも力が出てしまったらしく、母親は両手を頬に当てがって泣き始めた。
「雪くん、何するの! こんなの、虐待でしょ!? 警察! 警察! 警察!」
「呼びたかったら呼べよ。母さんがやってることだって、虐待だろ」
「これはただの躾でしょ!? 雪くんがお母さんの言うこと聞かないのが悪いんじゃない! この暴力息子が! あんたなんか、産むんじゃなかった!」
俺だって、こんな家に産まれたくなかった。
それに警察なんか、呼ばべるわけないよ。あんたは。うちに警察なんて来たら、それこそあんたの言う世間体が悪くなる。
「母さん、俺が愚かなのって、誰に似たんだろうね」
「雪くん! 何するの! 雪くん!」
「母さん、母さんは看護師だから、知ってるでしょ? ヒトは、父の遺伝子と母の遺伝子が、減数分裂を経て新たな二対をつくるんだ」
「雪くん!」
「俺が出来損ないなのは、父さんのせい? 母さんのせい?」
感情がぐちゃぐちゃになって死にたくなった。テーブルの上に転がるティッシュよりも、母の姿は矮小だった。
母はずっと、泣き続けていた。俺はそんな母さんの姿を、ただずっと見つめていた。
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