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気持ち悪い思考には固くふたをして、改めて何を尋ねようか考えた。
なぜ付き合うふりが必要なのか、という疑問が一番最初に浮かんだが、すぐにその考えを排した。この質問はすでに彼女に何度かしていて、そのたびにはぐらかされていたのだ。
違うことを聞いてみよう、思って、口を開く。
「静はさ、どうして俺だったの?」
「どうしてって?」
「付き合うふりするなら、俺じゃなくても良かったはずじゃん。どうして俺だったのかな、と思って」
静は前を見て、んー、と勿体ぶったような間をつくる。言葉を選んでいるような仕草にすこしそわそわとした。
「雪くんはね、あたしの、死んだお兄ちゃんに似てるの」
「……へえ」
お兄さん、亡くなってるのか。
一瞬で言葉を失ってしまった。だってそんなの、ずけずけと足を踏み入れていい話題じゃない。この話は、ここで終わりにしておこう。
前を向いて、ふたり並んで歩く。
あの一件から、母とはあまり話さなくなった。母は仕事を休みがちなり、最近は部屋に引きこもっている。
だが、俺は以前ほど成績のことについてうるさく言われなくなった。スマホの通信量は未だ1GBのままだけど、生活の容量はすこし大きくなった。
次の期末試験はきっと1位じゃなくなる気がした。
静との恋人ごっこも、もう少し続きそうな気がした。
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