抑圧の少年(塩田雪)

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 教育熱心な母。無関心な父。その方程式が導く先は抑圧である。  母親は学歴にコンプレックスがある。国立大学の受験に落ち、専門学校に進学。資格を取って、思惑通り医者と結婚したまでは良かったが、だからといって母のコンプレックスはなくならなかった。  不妊治療を経て授かった念願の一人息子である俺に対して、母は期待していた。つまり、自分が叶えられなかった夢を、俺を使って叶えようとしているのだ。  あなたは医者の息子だから、と言って、やれ習い事だの、やれ勉強だのを強制させられた人生。血を吐くほどの努力で県下一の公立進学校に進学できた所までは良いけれど、今度は旧帝大の医学部に入れ、だそう。いやいや、そう簡単に言うなよ。  俺は、医者の息子かもしれないけれど、アンタの息子でもあるんだよ。  (とんび)(たか)を産む、なんて言葉があるけれど、全然嘘だと思う。父さんと母さんから受け継いだ俺の遺伝子じゃ、良くて中堅私大の医学部にギリ現役で入れるかどうかだって。  通信制限の来たスマホを放り投げる。俺のスマホは月に1GBまでしか使えない。勉強に不必要なことは徹底的に排除する母の元、たった1GBだけでも自由を手に入れた俺を褒めた方がいい。  俺の携帯代をケチるくせに、お弁当をつくるのが面倒だからという理由で、母は多めに金を渡してくる。それが唯一の救いだった。そういう、言動に一貫性のないところが母を母たらしめている要因だと思う。
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