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勉強以外のことを許されない家と学校の往復に変化が生まれたのは、なんの変哲もない水曜日の放課後だった。
HRの後、家に帰ろうと廊下を歩く俺を引き留めたのは、顔に全然見覚えのない女の子だった。
白く透き通る肌に、決して派手ではないけれど整ったパーツ。だけど全然印象のない顔で、無地のノートみたいだなと思った。何にも染まれそうなのに、何にも染まらないような。目力さえ弱々しい。
「塩田くん。いま、ちょっと時間ある?」
「どうして?」
「聞きたいことがあるの」
彼女はそう言って、右手でピースを作った。それを裏返して、指を口に当てがう。
––まるで、煙草を吸う仕草をするみたいに。
「っ、」
咄嗟に彼女の手を掴んで腕を下ろさせた。
まずい、というひらがな3文字が頭のなかをハイスピードで駆け巡る。
鞄の中に入っている煙草の箱は、誰にも知られてはいけない俺だけの秘密だったはずなのに。なぜ、顔も知らない彼女がそれを? いつバレた?
「……行こっか?」
俺の焦りようを嗤うみたいに、彼女は無邪気にそう言った。
こてん、と首を可愛らしく傾ける彼女が悪魔のように見える。ていうかこの子、だれ。
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