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校舎の最上階の端っこに位置する、選択教室Cという、定員が20人ほどしかない小さい教室にふたりで身を潜めた。
尋ねると、彼女は文系クラスに所属している有川 静という名の女の子らしい。もちろん面識はお互いにない。
「でね、あたし、知ってるんだよ。塩田くんが、煙草吸ってるの」
有川さんは黒板の前に立って俺を見つめている。俺は窓際の机に体重を預けながら、脅されるのかな、と身も蓋もない思考に意識を寄せた。
なんでバレたんだろう。でも、俺が煙草を吸うのはいつも学校帰りだから、尾けられれば一瞬か。
まあいいか。ここは、開き直ったほうが良さそうだ。
「……びっくりした?」
「うん。まさか、優等生の塩田くんが悪いひとなんてね」
「優等生っていうの、やめてよ」
「じゃあやめるね。塩田くん」
内心、心臓はバクバクと鳴っていた。先生たちに煙草がばれたら、どうなるんだろう。母に連絡が行くだろうな。どうしよ、想像するだけでげんなりする。
「有川さん、そのこと、内緒にしてくれるかな?」
「もちろん。でもね、ひとつだけ、お願いがあるの」
やはり脅しか。どうしよう。でも、母親に煙草がばれる面倒さに比べたら、内容次第では条件を呑むしかないだろう。
「お願いって、何?」
覚悟を持って尋ね返す。
彼女は、あのね、と前置きをしてから、俺の目を真っ直ぐ捉えて言った。
「言わない代わりに、彼氏のふり、してくれない?」
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