抑圧の少年(塩田雪)

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 想像していたよりもだいぶ斜め上のお願いに、思わず、え、と声が出た。 「彼氏のふり?」 「そう。別に、付き合わなくていいの。デートなんかもしなくていい。放課後一緒に帰ったりとか、他の人に何か聞かれたら、付き合ってるって答えてくれればいい。恋人っていうステータスを借りたいだけ」 「それって、何の意味があるの?」 「言えない。でも、とっても大事なことなの」  どうしてだろう、と考える。  すぐにぱっと思いつくのは、ストーカーとか、そういうこと。彼女が誰かに付き纏われていて、それが迷惑だから隣に男性を置いて、ボディーガードの代わりにしたい、みたいな事情だったりするのだろうか。  もしそうだったら素直に言ってくれればいいのに。それくらいなら全然協力するし。  なんだかよくわからないけれど、煙草の件を隠してくれるなら安いような気もした。  あと、俺も最近はすこし、話し相手が欲しかった。べつに付き合うふりくらい、良いかな。 「煙草のこと、言わないって約束してくれるなら、いいよ」  すんなりと快諾できる自分に驚いた。別にふりだから、休日が潰れるわけでもないし、連絡とかも別に取らなくて良いのだろう。  有川さんは、ありがとう、と言って笑った。ずいぶんと左右が非対称な、奇妙な笑い方だなと思った。
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