7人が本棚に入れています
本棚に追加
想像していたよりもだいぶ斜め上のお願いに、思わず、え、と声が出た。
「彼氏のふり?」
「そう。別に、付き合わなくていいの。デートなんかもしなくていい。放課後一緒に帰ったりとか、他の人に何か聞かれたら、付き合ってるって答えてくれればいい。恋人っていうステータスを借りたいだけ」
「それって、何の意味があるの?」
「言えない。でも、とっても大事なことなの」
どうしてだろう、と考える。
すぐにぱっと思いつくのは、ストーカーとか、そういうこと。彼女が誰かに付き纏われていて、それが迷惑だから隣に男性を置いて、ボディーガードの代わりにしたい、みたいな事情だったりするのだろうか。
もしそうだったら素直に言ってくれればいいのに。それくらいなら全然協力するし。
なんだかよくわからないけれど、煙草の件を隠してくれるなら安いような気もした。
あと、俺も最近はすこし、話し相手が欲しかった。べつに付き合うふりくらい、良いかな。
「煙草のこと、言わないって約束してくれるなら、いいよ」
すんなりと快諾できる自分に驚いた。別にふりだから、休日が潰れるわけでもないし、連絡とかも別に取らなくて良いのだろう。
有川さんは、ありがとう、と言って笑った。ずいぶんと左右が非対称な、奇妙な笑い方だなと思った。
最初のコメントを投稿しよう!