抑圧の少年(塩田雪)

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 彼女からのご要望は、平日は毎日一緒に帰ること、周りに付き合いを聞かれたら必ず「付き合っている」と答えることの2つだけだった。  付き合うふりをするのなら、お互いのことを下の名前で呼び合ったほうがリアルじゃない? と提案したのは俺の方。  彼女はすこしうれしそうにしながら、俺を雪くんと呼びはじめた。俺は彼女を(せい)と呼ぶことにした。 「雪くん、飴食べない?」  俺の煙で受動喫煙をする共犯者の彼女は、俺の制服に消臭スプレーを丁寧にふったあと、ポケットからミントの飴を取り出して渡してきた。  煙草って口からも匂うんだよ、と彼女は笑った。何で知ってるんだろう。経験者みたいだな。 「ん、ありがと」  受け取ったミントの飴を口に運ぶ。すう、と口内温度が低くなる気がした。  たった数週間、数十分の下校を彼女と共にしただけだったが、(せい)と一緒にいる時間は悪くないと思えた。単純接触効果だとしたら俺はほんとうに単純すぎる。  彼女は俺を、優等生というフィルターを通さずに見てくれている感じがした。それがすごく、心地よかった。
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