抑圧の少年(塩田雪)

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 (せい)がいるはずのクラスを覗き込むと、そこには談笑する女子生徒がまばらに残っているだけで、お目当ての彼女は居なかった。  珍しいな、と思って、近くにいた女子に声をかけた。 「あの、すみません。有川静、見てない?」 「有川さん? さっき階段登っていくの見た気がする」 「わかった、ありがとう」  上の階って何があっただろう。最初に静と話した選択教室Cだろうか。全然心当たりがないけれど、戯れに行ってみようと思い、俺は階段に向かった。  4階の端に位置する選択教室C。近くまで来ると人の気配を感じた。思わず息を潜めてしまう。  中を覗き込もうとして、止めた。中には誰か、他の男子生徒がいるみたいだ。 「佐野(さの)くん、これ」 「うん、ありがとう。ちゃんと入ってるよね?」 「だいじょうぶー。でも、ここで見ないで」 「はいはい。じゃあ、またね」  聞こえてくるのは、静の声と、聞き覚えのある声。  ちらりと見えたのは、静がその男子に、茶封筒を渡すところ。 「っ、」  俺はふたりに気づかれないように踵を返した。なにか、見てはいけないようなものを見てしまった気がして。  静が相手に渡していた茶封筒。あれには、いったい何が入っていたんだろうか。
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