抑圧の少年(塩田雪)

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抑圧の少年(塩田雪)

 かちり、ライターで火をつけると、唇の端から紫煙が立ち上っていった。  煙の行く先を見上げると、そこにはからりと晴れた空。夏は嫌いだ。纏わりつく湿気がどうにも不快で。  通学用のカバンには、教科書だとか、参考書だとかがぎっしり詰め込まれている。  中間テストの結果が返ってきたけれど、母親に見せる気にならない。ゆえに、家に帰る気になれない。  学校帰り、図書館裏の人目につかないさびれた喫煙所。俺は17歳なのに煙草なんか吸っちゃう悪い子だから、みんな俺を蔑むといい。  未成年喫煙のなにが悪いかって、十分に成長してない身体に煙をとり込むのが健康に悪いから、なのだろう。  じゃあ、俺は自分の健康なんかどうでも良いから、吸わせてくれよ。大丈夫。自分がダサいっこと、ちゃんと知ってるから。  ゆっくりと煙を肺に流し込んで、吐く。呼吸がゆっくりになる。気分がすうっと落ち着いていく。心くらい守らせてほしい。今日は、嫌なことがあったから。  中間テストは相変わらず学年1位を守ることができた。だけど全科目の合計点数が、前回の試験よりも10点下がってしまった。つねに俺の欠点ばかりを指摘する母はきっと、俺をきつく叱責するだろう。  煙を吐きだす。この瞬間だけは、1位の、優れて秀でた俺じゃなくていい。
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