夏の遺影

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おじいちゃんには、魂のかたちが見えたらしい。 絵画として、それをキャンバスに(とど)めおくのを生業(なりわい)としていた。 おじいちゃんの言葉を、誰もが話半分で聞いた。はあそうですか、絵描きさんには我々一般人には見えないものが見えるんですかねえ。そんなふうに否定はされなくても、肯定もされない。 不思議だった。 どうしてみんな、こんなわくわくする話を聞き流すの? 9歳だった当時の私は、おじいちゃんが大好きだった。 なんの変哲もない古びたオルゴールも、おじいちゃんが描くと秘密の宝石箱のように輝いて見えた。老人の枯れ枝のような手が、魔法のステッキのように思えた。 だから私は「あと一回だけ描いて」とねだった。 おじいちゃんは可愛い孫の願いを聞いて、スケッチブックに小さな作品をいくつも残してくれた。 私はそれを、宝物のように抱えて喜んだ。 あれから7年。 私は高校生になった。 大好きだった祖父はもういない。 自ら命を絶ったのだ。
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