夏の遺影

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カリカリ、シャッーー鉛筆を走らせる。 私は家計簿を広げている。けど私の視線の先にあるのは、そのすぐ右、手のひらサイズのメモ帳だった。 メモ帳に描写しているのは、窓際に遊びにきたスズメ。 家計簿をつけている最中に飛んできたから、レシート集計そっちのけでスケッチをはじめてしまった。 私の場合は本当にただ見たままを写すだけ。おじいちゃんのように魂のかたちを感じることはできないのだけど。 「あ。お姉ちゃん、何やってるの」 弟の(かい)が声を弾ませやってきた。 海は歳の離れた弟で、小学二年生。 周りからあまり似てない姉弟と言われるけど、そんな瑣末(さまつ)なことは気にならないほど、私は海のことが可愛かった。 海とは大の仲良しだ。というより私が半分、お母さんがわりみたいなもの。 「あっ。これスズメ? お姉ちゃんてやっぱりすごく上手! ねえ他にも何か描いてよ」 「しぃ、海。大きな声出さないで。ここではちょっと……」 私が海の口を塞ごうとすると、 「ちょっと奈帆(なほ)、まぁたこんなもん描いて!」 おばあちゃんの手が、海を押し退()けた。 「絵描きなんてロクなもんじゃないからやめなさいって、あれほど言ったでしょ。あの人に影響されたのか知らないけど、あんたもう来年受験生よね。そんなことやってる暇があったら、公式のひとつも覚えなさい」
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