夏の遺影

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おじいちゃんがいない今、この家で絵を描くのは禁止。 ここはおばあちゃんの家だから、おばあちゃんの意に反することはできない。 でもおばあちゃんだって、昔からこんなふうじゃなかった。 お化けみたいにシミが広がった天井、踏めばギイギイ音をたてる廊下、手入れされず草が伸び放題の小庭。 同じ古い家でも、おじいちゃんやお母さんが生きていた頃は、もう少し活気があった。お母さんは海を産んで一年もたたないうちに死んでしまった。交通事故に遭ったという。 うなだれる私と、目を吊り上げるおばあちゃんの間で、海がおろおろしていた。 このままじゃ海がかわいそう。 私は立ち上がっておばあちゃんと目を合わせた。こうすると私のほうが背が高い。 にこっと笑い、スズメの絵を破り捨てる。 「ごめんなさい。もうしないから」 おばあちゃんが口を開く前に、私は海の手を引く。 「そういえば二階の洗濯物、まだ取り込んでなかったよね? 私と海で行ってくる」 海は驚いた顔をしていたけど、何も言わずについてきた。
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