夏の遺影

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「さっきはごめんね。僕が騒いだせいでおばあちゃんに怒られちゃって」 どうやら、ここに来るまでずっと気にしていたらしい。こんなにしおらしくされたら、責められるわけがない。 「海のせいじゃないからいいよ。私が居間で絵を描いてたのが良くなかったの。今度はもっと上手くやるから」 冗談めかして言うと、海は目を輝かせて頷いた。 とりとめもない話をしながら、ふたりで洗濯物を取り込む。さっきまでぎゅっと身を縮めていたのが嘘のよう。 一歩外へ出れば、私は何でもできる気がする。 ラスト一枚の靴下をカゴへ入れたとき、海がじっとこちらを見ているのに気付いた。 「お姉ちゃんは大人になったらこの家を出るの? 」 一瞬、海に思考を読まれたのかと思った。 「2組のりぃくんがね、大きくなったらお母さんやお父さんと離れて、一人暮らしするんだって。お姉ちゃんも大人になったら、僕を残して行っちゃうの?」 この古びた家には、気難しいおばあちゃんと、子供にあまり関心のない父親しかいない。 おばあちゃんは、父方のお母さん。 息子である父には愛情をそそいでいるけど、お父さんはそれを煙たがってる。海外出張が多いせいもあって、なかなか家に帰らない。 海はおばあちゃんと相性が良くなくて、会話しているのをあまり見たことがない。存在を無視されているようにも思える。何故かは分からないけど、昔からそうだった。 海は、私と保育園の先生に育てられたようなものなのだ。 私が出て行ったら、海はーー。 「海を置いて行ったりしない。海が大きくなるまで、待っててあげる」 弟の不安が痛いほど分かって、私は海の肩を抱き寄せた。
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