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「え? 先輩が亡くなった?」  田中は、信じられない思いで訊き返した。  職場で可愛がってもらっていた桐谷という先輩が事故で亡くなった、と、今しがた警察から連絡があった。  上司が、対応する為に、ぶつくさ言いながら警察に向かった。  上司が消えた途端、職場の空気が僅かに緩んだ。  皆、上司が嫌いだった。  自分の仕事を周りに仕事を押し付け、手柄は自分のもの。逆に自分に対する評価が得られなければ自分が人にやらせておきながらやれ完成度が低いだの何だのと文句を言ってくる。上に対してホワイトな職場に見せかける為、皆に残業するなと言いながら、許容量を超える仕事を割り振る。それで残ればグズだの無能だのと罵り、記録上、帰宅したように見せかけ残業させ、残業代を出さなかった。    桐谷先輩は、皆の為に、何度も上司に掛け合ってくれた。証拠を揃えて上の方に言うしかない。先輩がそう言っていた矢先だった。  きっと忙しすぎて過労死したんだ。  それか変な所で倒れて、車か電車に轢かれたのかも。  皆、先輩を気の毒に思いながら、少し羨ましくも思った。  ――もう働かなくて良くなったんだな、先輩。  
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