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 三日後、重い身体を引き摺るようにして出社した田中は、職場に来て信じられないものを見た。 「ええ!?」  早々と出社していた者が何人かいた為、皆、大声にびっくりして田中を見た。 「何?!」 「え? い、いや、何でもない……です」 「大声出すなよ!」 「すみません」  田中は、混乱しながらも謝罪した。そんな田中の顔を覗き込む者があった。  田中は、恐る恐るその人を見た。 (桐谷先輩……!)  田中の目が捉えていたのは、三日前に死んだ筈の桐谷先輩の姿だった。 (なんで? なんで先輩が? これ、幽霊なのか?)  田中は、冷たいんだか、熱いんだか、良く分からない汗をかきながら桐谷先輩をまじまじと見た。 (幽霊だよな。きっと)  桐谷先輩は、最初こそ死人のように無表情だったが(まあそうなんだが)、田中が自分の存在を視認していると気が付き、ぱくぱくと口を動かしてきた。何か言っている様だ。 (先輩? 何言ってるんですか?)  田中は、自分には霊感は無いと思っていたし、実際生まれて今まで幽霊を見たことも金縛りにあう等の不思議体験をしたこともなかった。ふと周りを振り返ってみると、誰も桐谷先輩の存在に気付いていない。見えていたら、大騒ぎになる筈だ。  田中は、仕方なく、自分の席に着いた。上司から振られた仕事の納期が迫っていた。 (とにかく今は仕事をするしかない。先輩とはなんとか昼休憩の時に話をしよう)  
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