書き換えられたスケジュール

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 遺留品の受け取りにサインをした俺は、重みのない段ボールを持って車に戻った。段ボールを抱えたまま運転席に座ると、シートにもたれまま動けなかった。すぐに車を出し、妻のいる病院へ向かう気にはなれなかった。  今が現実なのか夢なのか、自分の心が何処にあるのかさへ掴めなかった。視線をどこに合わせるでもなく、膝に乗せた段ボール箱をまさぐった。娘が最後に持っていた物。警察がかき集めた物。  小学生だった娘は妻の連れ子だった。男性が怖いらしく、会うたびに大粒の涙を浮かべ母親の後ろに隠れていた。一年後には抱き着いて肩車をせがむようになった。  一緒に暮らすようになると関係はリセットされた。たまに会う優しいおじさんが、毎晩家にいるようになったのだから当然と思えた。一年後には寝る前の読み聞かせをせがむようになった。  小学生高学年なり俺の呼び名は、名前にさん付けで定着した。それ以外は、傍から見れば家族らしくなったように思った。  手に掴んだ物を段ボール箱から取り出すと、それは濃い緑色のスケジュール帳だった。俺が高校受験合格の祝いにあげたものだ。意味もなくその表面を撫でると、エンボス加工され質感は爬虫類の皮膚のようで冷たく感じた。あの日に触れた娘のように。  中学生ともなると反抗期とまでは言わずも叱る必要がでてきた。俺は自分の感情で行動しないように努め、叱るのは母親に対する態度だけに留めた。あとは娘の話を聞くことに徹した。二年生の夏には彼氏の話しも聞かされることになり、複雑な父親らしい気持ちをおぼえた。
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