書き換えられたスケジュール

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 娘の中学生最後のスケジュール。ボールペンで書かれた予定の下に、色とりどりのペンで書き込みがあった。何を楽しみにして、何を感じていたのか。その文面からは、俺なんかの学生時代よりも感情の豊かさを感じた。  十月の予定達が待ちぼうけをくらっていた。過ぎ去った日々を書き込む娘はもういないのだ。胸が苦しくなり息を求めるように顔を上げると、警察署に入ってゆくスーツ姿の男女が目にとまった。  妻と娘の未来を奪った男。そんな男の未来の為に戦う奴らだ。心臓を掴まれたように胸が苦しくなると同時に、全身に力がみなぎるのを感じた。なぜだ、なぜだ、なぜなんだ。死んでいた感情が怒りで蘇生し殺意に染まってゆく。警官にドアガラスをノックされ、俺は自分がハンドルを叩いてクラクションを響かせていたことに気が付いた。  あの日。連絡が入ったのは勤務中だった。まさに血の気が引いて倒れそうだった。そして意識をシャットダウンして、淡々と行動した。自分に起きたことを、ちゃんと理解したのは後々になってからだった。  妻と娘はいつものように一緒に買い物をして、いつものように一緒に帰り道を歩いていた。ただそれだけだった。それなのに暴走した車が二人に突っ込んだ。娘は死に妻は意識不明のままだ。  十九歳男性の飲酒運転。報道はたった一週間だった。マスコミの関心がなくなれば世間にも忘れられる。そうなれば事件や事故は、ただ事務的に処理されるだけだ。  何年刑務所で罪を償おうが、それは法を犯した罪であって、被害者やその遺族は置き去りだ。だから俺は絶対不起訴にして司法には委ねないと決めた。釈放され、もう一回酒を口にする前に俺の手で未来を奪ってやる。その思いだけが俺が生きていられる理由だった。
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