書き換えられたスケジュール

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 ドアガラスを叩いた警官に、遺留品の受け取りに来て取り乱したのだと説明して詫びた。警官は、落ち着くまで居ていいですから冷静にと言って去って行った。  正義面した司法の犬めと思いながら、主を失った予定を眺めた。映画や美術展、カラオケにハロウィンパーティー。これから迎えるはずだった先々での娘の表情が、その輝いた瞳が脳裏に浮かぶ。娘の無念さが胸をえぐり、悔しさに全身が震えた。  絶対犯人の最後を書き込んでやると滲んで見えるページをめくった時だった。一ヵ所に目が釘付けになった。そこは俺の誕生日だった。 お父さんの誕生日  一気に目頭が熱くなり娘の文字が霞んだ。記憶の中には、俺を名前で呼ぶ娘の声しかない。しかしそこには、お父さんと書かれていた。  涙を拭き、もう一回娘の文字を見直す。すると俺の涙が落ちたのか、お父さんの文字が崩れていた。指先でなぞる。そして気が付いた。俺はゆっくりと修正テープをめくった。そこには俺の名前が書かれていた。  娘は俺の名前を修正テープでお父さんに書き換えていた。どんな心境の変化があったのか、それは俺が本当に父親になれたという事なのか。俺は嗚咽を漏らしてスケジュール帳を抱き締めた。  もう一回会えたなら、確かめることが出来るのに。もう一回会えたなら、俺の気持ちを全て言葉で伝えられるのに。あと一回だけでも。
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