グッドモーニング、レディーズ。

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グッドモーニング、レディーズ。

 ミアのアパートの扉を潜る。外では既に陽が高く昇っていた。それはそうか。時刻は午前十時半。昨夜は結構遅かったから寝坊をしてしまった。私の後に続いてミアも出て来る。扉に鍵をかけ、此方を振り返った。行こっか、と微笑む彼女の目は糸のように細くなる。うん、と私も応じる。数段の階段を降りて道路に並んだ。リコちゃん、と彼女が私のハンドルネームを口にする。 「手、繋ごう」  少し躊躇したけれど、いいよ、とおずおずと応じた。 「リコちゃんの手、指が長いね。手の平も薄いし綺麗だな。私はアンパンみたいだもん。羨ましいや」  若干舌ったらずな喋り方。あからさまだけど結局可愛い。なんて、下らないことを考える。 「男みたいな手ってよく言われるよ」 「いいじゃん、格好良くて。私は好き」  平気で好きとか口にするんだから。まったく、悪い子だ。同時に、昨晩の夜更かしが頭を過って顔が熱くなる。もしかしたら、なんて想像もしていなかったのに、まさかあんなことになるなんて。戸惑いと、恥ずかしさと、妙な解放感が胸に満ちていた。不思議な感覚だ。そして手を繋いで私と彼女は歩いている。これからどうなるのやら。我ながら、若干軽率だったかな。ただまあ、まだ一晩だけだし。お付き合いをしましょうって明言したわけでもないし。 「リコちゃん、赤だよ」  ミアに手を引かれて我に返る。考え込んでおり信号に気付かなかった。一人だったら突っ込んでいたな。ありがとう、と彼女の柔らかい手を握る力を少し強める。 「危なっかしいなぁ。でもそういうちょっと抜けているところも可愛いね」  屈託のない笑みでそう言われて、私は言葉に詰まるのであった。
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