スキップで去る人とネットストーカー。

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スキップで去る人とネットストーカー。

 ミアとリアルで会うのは今日で二回目だ。出会った切っ掛けは半年前のコスプレイベントだった。私はとあるアニメの男性キャラクターに扮していた。身長が百七十三センチあるのはずっと私のコンプレックスだったけれど、サークルの友人に勧められて男装のコスプレをしたところ、痩身だったのも功を奏して自分でも驚く程、役に嵌った。友人は撮影専門なので、イベントへ二人で赴いては着替えた私を彼女が写真に収めた。最初は恥ずかしかったけど、すぐに慣れた。むしろ高身長が生かせてとても楽しくなった。 ミアに出会ったその日は、スーツ姿に銀髪のウィッグ、左耳に三連のピアスを着けて友人に写真を撮られていた。撮影の合間、友人がカメラを下ろした時。あの、と不意に高い声を掛けられた。 「お姉さん、凄いイケメンですね。もし良ければ、一緒に写真を撮って貰えますか?」  そう頼み込んで来たのがミアだった。彼女はゴスロリファッションに身を包んでいたのだけれど、髪の色は金で、黒ベースの服装と化粧には壊滅的に合っていなかった。まあそんな人と一枚撮るのも一興だ。そう思い気軽に応じた。一応、話のネタとして何のキャラのコスプレなのか訊いてみた。私の知らないアニメの名前を答えられ、ごめん知らない、と正直に打ち明けた。彼女はすぐにスマホで動画配信アプリを立ち上げ、オープニングの動画を見せてくれた。しかしタイトルロゴの背景に何故か血飛沫が飛んだ。ホラーやサスペンスは苦手だから見ないと思う、とはっきり断ると、格好いいのにギャップが可愛いですね、連絡先を教えて下さい、とせがまれた。流石に警戒したので、SNSに写真を上げているから此処を見てコメントして、とURLのQRコードを自分のスマホに表示した。彼女はすぐに読み込み、今夜楽しみます、と笑顔を浮かべた。そうして驚いたことにスキップをしながら人込みに消えていった。はしゃいでスキップをする人間って現実に存在するんだね、と友人は低い声で呟き、眼鏡を指で押し上げた。まるで、ズレてピントが合っていなかったから見間違えたのではないか、と確認するかのように。残念ながら、コンタクトの私の目にもバッチリ映っていた。夢でも見間違いでもなかったと思う。  その日の夜、SNSにコメントが飛んで来た。格好いいです! 好き! と書いてあり、普通に引いた。しかし既に友達登録もされていた。気乗りはしなかったけれど、礼儀として一応彼女のSNSも見に行った。ミアと名乗っているのをそこで知った。そしてとても驚いた。コスプレの写真も上げられてはいるのだが、今日は学食で何を食べたとか、道端の猫が可愛かったとか、大学のテストが近いのにバイトのシフトを入れられてしまい困っているとか、案外等身大の大学生の書き込みがほとんどだった。金髪ゴスロリで高い声を発し、ギャップが素敵ですねと写真をせがむ彼女の印象とはまた少し違って見えた。ちなみに私は勝手に彼女を高卒フリーターだと思っていた。理由は無い。何となく勝手なイメージを押し付けただけ。だけど自分の偏見がひどいことに初めて気付いた。ちなみに私は高卒で派遣社員の二十三歳だ。自分と同じか、やや下くらいに彼女を見ようとしていたのか。我ながら性格が悪い、と自嘲した。  先日の金髪はウィッグだったらしい。大学で時折友達と撮っている写真の彼女は黒髪で、化粧もナチュラルメイクというか、薄っすらしている程度だった。普段は目立たないタイプなんだろうな、とぼんやり想像した。普通の大学生活を眺めるのは、憧れもあり、また知らない世界を覗くようで楽しかった。気が付けば毎日彼女のSNSを開いていた。私もミアを友達登録した。私に気付いているのかいないのか、ミアはあの夜から私のSNSにコメントをすることも無く、むしろ私の方が彼女の生活を追っていた。なんなら過去に遡って閲覧した。大学三年生の現在から大学入学までを走破して、ネットストーカーみたい、と自分に呆れた。
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