Ⅱ 規律と道徳

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Ⅱ 規律と道徳

 契約を締結したその日の内にタウミエルはすぐさまの確保の為、一旦地球へと帰還した。  渡された計画書を一通り目を通し、最初は様子見も兼ねて10万人を用意した。  莫大な数だが、タウミエルにとってこのくらいは想定の範囲内であった。  (わず)か3日という短期間で10万人の人間を用意し、【ングエウ】へと納品した。   「これは驚いた。これほどの数を確保するのに数ヵ月は要すると思っておりましたが、それを数日で成し遂げてしまうとは」 「フフフ、商品は至るところに転がっていて、有り余っているくらいですからね。奴らも、これほどの大事業に命を捧げられるのですから、光栄に思っているでしょう」  その言葉とは裏腹に、納品された人間たちの表情は(うつ)ろで生気がまるで感じられなかった。 「これは、まともに働けるのか?」 「ええ、勿論。まさか私が粗悪品を用意するとでも?」 「いえ、そんなことは。ただ、あまりにも見た目が……その」 「成程、それは無理もありませんね。でもご心配なく。奴らはあくまでも意思を消去しているだけ。不平不満一つ吐かずに己の限界以上の働きをするでしょう」 「な、成程。まさに最強の労働力だ。だが、己の限界以上の働きをすると言っても、ばらつきはあるのだろう。よく見れば、老人らしき姿も見られる。数が数だから中身の精査までは困難だったのでしょうな」  建設大臣はどこか強気な面持ちでタウミエルの方を見た。まるで当てつけのようにも見えるが、タウミエルは余裕の表情を崩さなかった。   「この私が適当に数だけ寄せ集めているとでも?フフフ、商売(ビジネス)をしている以上、こだわりを持って選別していますよ」 「ほう。是非そのこだわりとやらをお聞かせ願いたいものですな」  これが建設大臣の元来の性情なのだろうか、どこか上から目線の物言いであった。  そんな圧力など歯牙(しが)にも掛けずにタウミエルは淡々と応じる。
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