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「世界は相反する性質の調和、つまり二元論で成り立っていますね。例えるなら天と地、光と闇、正義と悪と言った具合にね。まあ当然、人間にも例外なく当てはまるわけです」
「それは、まあそうだろうな」
「だけど、天使は神の代理として人間を悪の道に染まらないよう【規律と道徳】を示して教化しなければならない。これは主たる神から与えられた使命。まあ結論から言うと、私たちは神から一方的に【規律と道徳】を押し付けられて束縛される反面、人間たちは人間たちで私たちが掲げる【規律と道徳】なんかロクに守る気も無く好き勝手に生きて秩序を乱すだけ。こんなのだから天使というのは割に合わないんですよね」
半ば天使だった頃のタウミエルの不満が含まれているようだが、建設大臣は取り敢えずは真面目に聞く素振りだけは見せていた。
「ああ、ごめんなさい。話が脱線してしまった。で、この商売において、納品する商品は全て【規律と道徳】から外れたクズだけを選んでいるわ。現に今回納品したのも勿論――」
「これはこれは……罪人を奴隷として強制労働に駆り立てる。理に適っていると言えば適っている。しかし、我々からすると、それは【規律と道徳】に背く行為。自身の行為に罪悪感は感じないのでしょうか?」
「フフフ、急に正義ぶっちゃって。感じるわけないでしょ。クズなんかに。それに、私はこの商売を一種の【救済】だと考えているの」
「【救済】?」
「そう。【規律と道徳】から外れた人間を正しい道に戻す。その為には【救済】の機会が必要。その一環として意思を消して何かの役に立つ為に命を捧げる。フフフ、きっと彼らもこの崇高な理念に感激の涙を流さずにはいられないでしょう」
仕事依頼を持ち掛けた建設大臣側がどうこう言える立場ではないが、このタウミエルの発言には内心戦慄していた。
「さぁ、つまらないお喋りはこの辺でお終いです。今回の納品分の報酬についてゆっくり話し合いましょう」
「……流石、堕天使だ」
上機嫌なタウミエルとは対照的に建設大臣はすっかり気分が落ち込み、出来るだけ彼女の機嫌を損ねないよう細心の注意を払おうと決意した。
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