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そのちょっとした事件以来、なぜかレナイアはロイと距離を置くようになった。故意的に避けているようではないが、前のように近づいては来ない。
「最近、レナイアとランチ一緒にならなくなったよな?一年生も授業で忙しくなってきたのかなあ」
ファビオンも少し不思議そうに首を傾げるが、ロイも曖昧に頷くだけだった。
数ヶ月経ったある日、レナイアとばったり出くわした。そのころにはギプスも取れ、ほぼ元の生活が送れるようになっていた。
「やあ、レナイア。何だか久しぶりな気がするね」
「ロイ様、お久しぶりです。なかなかご挨拶にもうかがえず申し訳ありません。腕は……」
ギプスの外れたロイの右腕に目を向けるレナイア。
「おかげさまでだいぶよくなったよ。利き腕だから不便だったけど、ギプスで固定中のリハビリも楽しかったし、負傷者の気持ちがよくわかったからいい勉強になったってところかな」
「本当に申し訳ありませんでした。私が骨折すればよかったと何度思ったことか。お手伝いにもうかがおうと思ったのです。ですがそれはさすがに許されず……いえ、我が家も私もそうしたかったのですが…………」
もごもごと小さく口を動かしはっきり聞こえなかったが、王家から止められたのかもしれない。止められたのならば王族であることもバレているのかもしれない。
両親には、レナイアは何も悪くないから、お願いだから何もしてくれるなと強く言い聞かせたので、悪いようにはしていないはずだが……と急に不安になった。
「次にこういうことがあっても、絶対に私を助けないで下さい。他の人でも一緒です。ファビオン様でもですよ?」
「ファビオンは腕がいいから大丈夫じゃないかなあ……なかなか怪我なんかしないと思うよ。むしろ僕が助けられちゃうかも?」
ロイがふわふわ、へらへらと答えるので、レナイアは眉を吊り上げ真っ赤な顔で声を荒げた。
「笑いごとではありません!約束して下さい、二度と誰も助けないと。絶対に怪我はしないと!お体に何かあったらどうするのですか!」
怒ったレナイアもそれはそれは美しくて見惚れてしまい、すぐには返事ができない。
王族であることはバレているようだし、ゆっくりと返事を考える。
「申し訳ないけど……怪我をしないという約束はできないかな。僕には国民を守る使命がある。もちろん、自分の心身を大事にしていないわけではないよ。健康でなければ民も国も守れないからね。でも、どうしても必要に迫られることはある。僕はそういうときに動ける人間でありたいんだ」
「それは、そうでしょうけど……」
「納得できない?」
「できません。だって私は、あなたを守るために……」
レナイアは下を向き、それ以上何も言わなかった。
それからさらに、レナイアとロイは顔を合わすことがなくなっていった。
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