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「女性じゃなくてがっかりしましたか?」
「まさか。驚いただけだよ」
「本当に?」
「変なこと気にするんだな。だいたい君が女の子だったら、こんなに仲良くなってなかっただろ?一緒に剣術の授業とか、体術の授業とか……ファビオンの一人勝ちだったけどさ」
ふとファビオンを思い出して笑う。ああ見えてかなり腕っぷしが強かった。チャラチャラして見えるのに猛者で、当然女の子にモテモテだ。
少しムッとしたレナイアは、反抗して言う。
「確かにファビオン様はお強いですが、追い抜いて見せます!」
「焦らなくていいよ。君は君だし、僕は僕。ファビオンはファビオンだから」
「……あのとき、ロイ様が帰国された後、毎日泣きじゃくっていました。そこで決心したんです。将来はアメリオ王国に行き、ロイ様の専属騎士になると……それなのにまた怪我をさせてしまうなど不甲斐なくて……ああ、消えたい」
「いや、だから消えないでって。小さいころの火傷も残ってないよ?骨折も治ったし気に病む必要はない。それより帰国するってことは、僕の専属騎士は諦めたってこと?」
「まさか!」
レナイアは即答した。
「そんなわけはありません。ただ、剣術ではファビオン様にもロイ様にも敵いません。もう少し自国で修行したいと思いまして……王位継承権の放棄も必要ですし、いったん帰ることにしたんです」
「じゃあまた来てくれるんだね?」
「もちろんです」
レナイアの顔は真っ赤だったが、よく見るとロイも頬がさくらんぼ色に染まっていた。
「ファビオン様を越えたら専属騎士にして下さいますか?」
「あいつは気にしなくていいって言ったでしょ。僕はそれなりに強いし、ファビオンは僕への敬意が足りないからな」
ロイはほんの少し頰をふくらませた。
「確かに」
「僕のこと子爵家だと思ってるからね。この顔じゃ仕方ないけどさ」
「海よりも深い漆黒の髪色は、艷やかで色気がありますし、褐色気味な肌もつるつるな宝石のように見えますのに?」
「はは、そんなこと初めて言われたな。気を使ってくれているんだね。ありがとう」
するといつかのように、レナイアは眉を吊り上げ顔を真っ赤にして叫んだ。
「気を使ってなどいません!優しくて美しくて、本当にそう思わないと好きになることなどありえません!」
二人の間に流れる空気が一瞬固まった後、レナイアは両手で顔を覆い隠した。
「すみません、つい余計なことを。恥ずかしくて消えたいです」
「だから消えなくていいって」
ロイはふふふっと笑った。美しい男子が怒った後に異常に恥ずかしがる姿は、思った以上にかわいらしかった。
「いえ、消えたいです」
「消えたら困る。専属騎士になれなくなるよ」
「あ、それは困りますね」
ぱっと顔を上げるレナイア。
「じゃあ消えないで戻ってきてくれるかい?」
「戻ります、必ず」
「待ってるからね」
「はい」
そう言って微笑むレナイアは、もういつもの気高く美しい彼に戻っていた。
「でも、ちょっと急いでね。このままだとファビオンが推薦されそう。僕が王子なんてわかったら、一体彼はどうなるんだろう」
ロイは困ったように笑うと、レナイアもつられるように笑った。
「土下座ですね」
「土下座かな」
ファビオンが土下座する姿を想像して、思わずロイは吹き出してしまう。
「私の最大のライバルですけどね」
その凛とした表情は美しくて、努力家でもあるし、自分の専属騎士には余りある人物だとロイは思った。
レナイアを見上げ、そっと右手を差し出した。レナイアも右手を前に出し、ロイの手を優しく包み込む。がっちりとした成人男性の手だった。それなのに温かくて優しくて、離したくない。ずっとこのまま包まれていたい。
「では、ロイ様お元気で。私が戻るまで決して怪我や病気をなさりませぬように」
「君もね」
しばし見つめ合っていたが、ゆっくりと手を離しレナイアは頭を下げると、寮の方へと戻って行った。
ロイはそのまましばらく、校内をのんびりと歩いてからゆったりと帰った。
(了)
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