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桃色の花びらが舞うこの季節。大きなため息をつきながら荘厳にそびえ立つ王立学校を見上げる。
ついにこのときが来てしまった。貴族や平民たちが通うこの学校に身分を隠して通わなければならない日々が。それが王家の伝統的な風習だった。
基本的に外見や言葉遣い、所作などからすぐにバレてしまうことが多いのだが、稀にそうならないことがある。おそらく今回がその一例となるだろう。
そして予想どおり、すでに一年が経過していた。
「なあ、ロイ。今年からこの学校に第一王子が身分を隠して通ってるらしいぞ」
一年前から通ってるんだけどな、そう思いながら、友人である伯爵家嫡男ファビオンを見上げる。
「そうらしいね」
「お前は興味ないのか?」
「それほどには」
「まあ、子爵家が王族と関わり合うこともないしな」
なぜかロイは、子爵貴族ということになっていた。ファビオンと仲良くなってすぐに子爵家と位置づけられ、肯定も否定もしなかったらいつの間にかそうなっていた。
確かにこの顔で王族には見えないし、公爵貴族のような品があるわけでもない。黒髪の黒目で塩顔。体型は細身だが小柄で、得意なことはないが不得意なこともない。
だがファビオンいわく、所作が精錬されているから平民ではなく貴族ではあるよな、だそうだ。それなら伯爵家とか侯爵家でもいい気がするが、聞いたことのない名前ということではじかれたのかもしれない。
ミドルネームはほとんど名乗ることはないため、ロイ·ゼハンと名乗っていたが、ゼハン家など聞いたことがないので、いた仕方ないだろう。本名はフルネームでロイド·ゼハン·アメリオだった。
「まあ、そうだね」
「オレは見つけたぞ」
「何を?」
「王子様」
いや、絶対見つけてないから、と思いながらも否定はしない。可能性がゼロではなかった。ロイが身分を隠して過ごしているように、隣国からの留学生の中には王族も一定数存在すると思われる。隣国からの留学生自体、かなりの数に上っていた。
アメリオはそういう寛容な国で、ロイ自身、誇りに思っていた。
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