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 「たぶん、突然行っても会えないぞ」  前を行く久恵に、渋々ついてきた内野が声をかける。  「刑事のあなたが一緒だと言ったら、もしかしたら話せるかもよ?」  「そんなわけないだろう。むしろ警戒される」  「昔の虐め仲間が次々焼死している状況よ。何か不安を感じているはず。そこをつつけば、つけいる隙はできるわ」  「俺を利用する気かよ……」  肩を竦める内野。彼女のしたたかさに舌を巻く。  例の原北富美男に、過去の虐めについて取材に行くところだ。つきあえと言われたときは戸惑ったが、こういう思惑があったのか……。  途中、前方から歩いてくる男が目についた。和装――白衣に黒袴で、いくつかの文字が書かれた編み笠を被っている。  すれ違うと、ハッとして久恵が立ち止まった。  「どうした?」  「ちょっと待ってて」  彼女はそう言い残し、和装の男に走り寄っていった。声をかけると相手は止まる。  何か言葉をかわした後、男が頭を下げて去って行くのを、久恵は呆然とした目で見送った。  「どうしたんだ? あれは誰だ?」  戻ってきた彼女に訊くと、まだ心ここにあらずという表情で応える。  「神主さんだって。刻縁神社の。編み笠にその名が書いてあったから確かめたんだけど、やっぱりそうだった」  「なに?」  怪訝な顔になる内野。確かその神社は、伝承の……。  突然、パトカーのサイレンが聞こえてきた。原北が住むというマンションの方へ向かっている。  まさか……?!  駆けつけてみると、消防車や救急車もやってくるところだった。しばらく眺めてから、消防士らしき男に身分を明かし事情を訊く。  原北の部屋の熱感知警報器が鳴ったらしい。それでコンシェルジュが中を確認したところ、黒焦げの死体が見つかった。たぶん本人だろう。  「怨火とどけ……」  驚きで息を呑む内野の横で、久恵が呟いた。  彼女の表情に不穏なものを感じたが、内野はかける言葉が見つからなかった。
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