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 コンコン……。  ノックの音がした。  「お届け物です」  微かな声も聞こえてくる。  ワンルームマンションでゲームをしていた宮本継夫は、モニターから目を離し玄関の方を見る。  変だな?  ドアホンを鳴らさずノックというのもそうだが、ここまでドアの向こうから直に声が聞こえてくるというのも妙に思えた。それも、年配の男性らしいが不気味な声だ。  夜も更け深夜に近い頃で、宅配便が届く時間でもないはずだが……。  コンコン……。  「お届け物です」  またしても聞こえてくる。急かしているふうではない。しかし、不穏な雰囲気を早く解消したいと思い立ち上がる。玄関前を映し出すモニターをつけた。  誰もいない……。  ここは小さなマンションの一階。自由に出入りできる。留守と思って帰ったのだろうか?  用心のために微かにドアを開けて向こうを見るが、やはり人影はない。ホッとして全開にする。  ん?  目の前の空間で、拳くらいの炎が燃えていた。ゆらゆらと揺れながら浮いている。  火の玉? いや、まさか。でも、なんでこんな所に?  混乱してしまった。  消した方がいいか? それとも、消防署へ連絡? 管理人には……?  戸惑っていると、炎はオレンジ色から濃い赤に変わり、最後に真っ黒になった。  く、黒い炎?   思わず目を見開く。  揺れ続ける漆黒の炎は、次第に大きくなっていった。そして――。  お届け物です……。  どこからともなく響いてくる声。それに伴い、黒い炎が迫ってくる。  うわぁぁっ!  慌てて逃げ出そうとした。しかし、あっという間に炎に呑み込まれてしまう。  「ぎゃあぁぁぁっ!」  激しい断末魔をあげ、宮本は燃えあがる。数分後には、玄関前のスペースに黒焦げになった彼の死体が転がった。
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