瘡蓋

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瘡蓋

 十二月三十一日  二十歳の私から六歳までの過去に向かって    税の作文を書いていた時を思い出しています。本当は興味なんて無いのに懸命に調べて、書き終えればすぐに忘れてしまうあの茹だる夏の時分です。確か十歳の夏休みの時でしたね。    しかし、税には興味が無くても、お金には興味がありましたね。とにかく自分で支払いたくなくて、バス代も夏祭りの屋台も映画代も誰かと折半したり、或いは優しさに甘えて全額支払ってもらったり。子供の頃の話ですから、可愛らしい笑い話の類になるでしょうか。そのせいで今の私は罪の意識に苛まれているのに、呑気な物です。  私が祖母の家に両親と行く時は、絶対にお金目的でしたね。幼稚園に通っていて帰り道にたまに立ち寄る時は、祖母の顔では無くて懐を見ていましたね。子供らしさなんて微塵も無くて、どうやってお小遣いを貰うかばかり考えていました。そこまでは子供の可愛らしい過ちであると言えるかも知れません。  でも、祖母が病院で臨終する時も、あなたはお金の事ばかり考えていましたね。それも中学生になっても、高校生になっても、今になっても祖母の事柄に関わらず、人が死んだら葬式代は何円かかるとか、花火大会の花火は一発何円だとか、何も反省しないままでしたね。そんな些細な罪を贖う対象はもうこの世界には居なくて残念ですね。    『綺麗な物は宝箱に入れる』なんて、良く言えましたね。私は金の亡者で、穢い悪魔で、一番綺麗から遠ざかっているのに。綺麗を選出する資格なんて無いのに。絵の中の世界はそんな事は描きませんが、一歩現実に戻れば、人の価値すら金銭で判断する悪魔ですよ。ああ恐ろしいですね。私の事ですね。    だからあの子の名前も描くのも止めたのです。私の穢い手で脳内の宝箱で一番綺麗なあの子を描くのは、酷く申し訳なかったのです。十四歳の時に金に対する執着に気付いて、絵を描く事すら殆どする事は無くなりましたね。自分が一生懸命に描いても、すぐに飛ばされて、悪い所ばかりが目について、自分の信じる綺麗すら疑ってしまうのも、罪の意識が背後で喋っているからです。何かを得ようとするな。  今思うと、何故天使を作ったのか、理由が良く分かります。このどうしようもない自分を救ってほしかったのですよね。家族の誰にも言えないから、励ましてくれる偶像が欲しかった。空を飛んで自由になりたかったけど、罪悪感もあったから脆い翼にした。六歳の時に胸がチクチクした理由が分かって満足です。  故にあなたは宇宙で一番綺麗な神様には絶対に勝てませんよ。祖母はあなたの事も、絵もこれっぽっちも興味ないですよ。私の言葉だって、あなたの心には響きませんよ。あなたは優しい人間ではないのですから。    さようなら。  あなたの不幸だけが今は待ち遠しいです。
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