4 水族館・約束・少女

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4 水族館・約束・少女

 「この衣装、最高に似合ってるでしょ!」  ニスカリカはコウテイペンギンの着ぐるみを着ていた。水槽を賑やかすのは甘い顔をした魚達で、当然私が知っている魚しか生息していない。円やかに溶けた悦楽の空気で泳ぐ魚は傍から見れば宙に浮いていて、造花で飾られた心象に安らぎを与えてくれる。  冷房が効き過ぎていて、随分と下まで落ちてきたなと思うと同時に、私の両手に出来た肉刺(まめ)とニスカリカの指輪を見返した。数え損ねた誕生日に憐憫を抱き、自分の為に狡猾な呪いをかける。渇きを満たす水は目の前にあって、編まれた光を覆う闇夜は私の手が担っている。 「ええ、本当に似合ってるわ。ちょっと刺激的だけど」    似合っている。今までの服飾も全て私好みだった。この世界は最後まで綺麗な物しか無かった。それは今までの旅路で出逢った全てに当てはまり、スロウ達ですら例外では無かった。数回の落下によって不完全ながらも極めて完成に近づいた記憶は、水族館の窓に反射して私に殆どを教えてくれる。  唯一思い出せないのは、私が犯した罪の内容だけだった。誰かが見れば取るに足らない様な、人の尊厳を踏み荒らす様な、実情を掴めない濁りのパズルピースが一欠片だけ存在しない。 「ねえ、ニスカリカ……」 「駄目だよ。それだけは思い出しちゃいけないの」 「……どうして」 「だってそれを思い出したら、約束守ってくれなくなっちゃうもん」    ニスカリカは宝箱の中身を私に見せる。綺麗な風景が敷き詰められた上に、色鉛筆と消しゴムが置かれている。その質感を私は知っている。肉刺と日常が、私の正体を心で理解させる。 「この世界は、十五歳までのカナエが描いた絵の中。そして私はこの世界に本来存在できない唯一の異分子。だから私は、ここまであなたを誘導したの。誰の邪魔も入らない様に。……でも、無駄だったね」
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