2 登校・学校・名前

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「私、何の事情も知らないのに一方的に施されるのは嫌なの。せめてあなたの名前だけでも教えてよ」    耐えきれず吐いた本音が空気を伝う。軽やかな足取りが重くなって、呼吸が荒くなっているのが分かる。あれだけ執着的だった体温が冷めていくのは私の内情に依るものなのか、それとも天使のせいなのか。答えは眼前に迫っていて、最早止める術はない。 「私、名前が無いの。ごめんね」    天使がそう告白したのと、目的地に到着したのは殆ど同時だった。私達は今まで登校をしていたのだ。なら最後に辿り着くのは当然校舎が有る場所になる。本来なら帰る家があるから往復切符を誰しもが持っている筈だが、今の私達は住居とは真反対の物を探しているから後ろは振り返らない。    校門を過ぎると桜の蕾が咲き誇る事無く開花の瞬間を密やかに待望していた。私達は互いに無言のまま歩みを進める。粗末な造りの木造校舎、改修工事が行われ周りと調和の取れていない新品の体育館、寂しそうに項垂れる翼。剣呑な愛想とは明らかに違うのに離れていく感覚があって、私の頭は軽率に狂いそうになる。何か適切な言葉をかけてやれないかと逡巡する。もう冷静じゃいられなかった。 「あなたの名前、私が命名してもいい?」 「……えっ」 「い、いや取り敢えずの仮の名前だよ! 誰かの真名を決めるなんて責任重大過ぎてやりたくないし……。でもあなたが悩んでるなら私だって少しでも助けになりたいの、って私、何を言ってるんだろう。気持ち悪いよね本当ごめん今の無し忘れて」
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