【怪談】小さな金属板

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 日本全国の高速道では,さまざまな落下物が路上に散乱し,それが交通事故につながることが多々ある。  業界団体が発表する落下物の処理件数によると,ビニールシートや木材,家具などが高速道路に落ちており,年間約五万七千件ほどの落下物が回収されている。  しかしペットボトルや家庭ごみなどの細かい落下物は放置されることも多く,それらを含めると実際の落下物の総数は報告件数の倍以上あると言われている。  そんな落下物のなかに小さな定規のような金属板が混ざっていることがある。これはその小さな金属板が毎年多くの事故を引き起こし,何人もの命を奪っているという話である。  これは長距離トラックのドライバーたちの間に伝わる話なのだが,高速道路で小さな鈍く光る物が一瞬でも見えたら減速して安全運転を心がけろと自分に言い聞かせるそうだ。  その金属板がいつからそこに落ちているのかは誰にもわからないが,最初に事故を引き起こしたといわれるのが既に三十年以上前で,当時,高速道路を複数台で走っていたバイクの先頭車が小さな金属板を踏んだ。  金属板は甲高い音をあげ,回転しながら勢いよく後ろを走るバイクの前輪を斬り裂いた。  バランスを崩して転倒したライダーが投げ出されると,滑るようにしてそのまま中央のガードレールに勢いよくぶつかり,ライダーは体を真っ二つに裂かれて死んだ。  それ以降,毎年数件,この金属板を踏んだ車やバイクが事故を起こしていったが,事故後に現場で金属板を見たものはおらずそれが事故の原因に特定されることはなかった。  令和になりほとんどの車が録画機能を備えると,何件かの事故を検証した動画に小さな金属板が映っているのが確認された。  しかしそれが事故の原因とするまでの確証はなく,参考資料程度に記録に残された。  そしてその金属板を器用に運ぶ狸や野生動物が何度か録画されていたことでその金属板が常に移動していることが予想された。  小さな金属板は確認されて以降も高速道路に度々現れては車やバイクのタイヤを斬り裂き,さまざまな死亡事故を起こしている。  視力のよいドライバーたちは走行中に金属板に気づくこともあるが,ほとんどの人たちは板を踏んで初めて何かを踏んだと認識した。  その金属板がどこからきて,誰が作ったのかはわからないが,高速道路で人の命を奪い続けることを目的としているかのようなその存在は多くのトラックドライバーによって語り継がれ,高速道路を運転するときには決して注意を怠るなと自分たちに言い聞かせているそうだ。
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