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若菜は、いつもの癒しのほほえみを浮かべながら、話を続けた。
「矢内先生は、戦争から目をそむけなかったでしょ。シゲルが去ってから、50年間も、戦争がなくなることを祈って、自分が何もできないことに心を痛めて、それを、今、こうやって私たちに伝えてくれたでしょ」
「でも、それだけじゃ、戦争はなくならないぞ」
と、洋太が話を混ぜ返すけど、若菜は負けてない。
「平和を守るって、そういうことなんじゃないかな」
ああ、なんとなくわかる。
「そうだね、もうダメだと思っても、そこで終わっちゃだめなんだ。祈って、もがいて、声を出して伝える!」
あ、なんか、興奮して、声がでかくなっちゃった。
「そうね、真剣に平和を願う人間を、地道に増やしていくって、大切なことかも」
由美もわかったみたい。
「あきらめたら、ダメってことだね」
周平、たまにはいいこと言うじゃん。
「シゲル、あと1回、50年後に来てみてよ」
と、私は言った。
「あと1回か……」
「そう、『あと1回』って言っている間は、おいでよ。平和を守ること、あきらめてない証拠だから」
「そうね、三代目、四代目、研究対象は引き継がれていくのかもしれない……」
ヤチバアのこわばっていた顔が、少しゆるんで、50年前の和子ちゃんの面影をのぞかせた。
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