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運動会の練習で、学校帰りはクタクタだ。5年生は組体操の特訓が、めちゃハード。ランドセルが背中にへばりついて、重たいよ、しんどいよ。踏切を渡れば、もうすぐ家だ。やっと遮断機が開いて、一歩前に踏み出すと、なまぬるい風が吹き、私の横を、龍が通り過ぎて行った。
「あ、龍だ」
小さな声で言ったのに、龍は、戻って来てこう言った。
「おまえが、二代目か?」
二代目って、なんじゃそりゃ。
「あんたに『おまえ』なんて呼ばれる筋合いはないね」
私は、龍を追いこした。
「待て。じゃあ、なんて呼べばいい?」
「知らない人には名前教えない」
ましてや、知らない龍になんて、教えるわけない。
「ついてこないでよ」
困った顔して龍がついてくる。龍ってもっと大きい生き物かと思っていたけれど、動物園のライオンくらいしかない。胴体をくねくねさせているから、伸ばせばもう少し大きくなるかもしれないけれど。
「子どもの龍なのかな?」
ひとり言を言ったのに、
「大人だよ」
私の隣に並んで、横目でにらんだ。
「おれたち龍は、変幻自在だ。大きくもなれれば、小さくもなれる」
いばっている。曲がり角に地域委員のおばさんがいた。
「おかえり~」
『パトロール中』と書かれた黄色い旗をパタパタさせて、愛想のいいおばさんだ。おばさんには、この龍が見えていないのか?
「おばさん。最近、防犯機能のついたロボットが登下校を見守ってくれたりするらしいですよ」
「あら、そんなのがあったらありがたいね」
「そのロボット、龍の形をしているそうです」
「へー、見てみたいねえ」
どうやら、おばさんには見えていないようだ。私は、また歩き出した。
「おれは、ロボットじゃない」
龍が、私の前に顔を出す。
「わかってるよ。本物の龍でしょ。なんで、おばさんにはあんたが見えないの?」
「選ばれし者にしか見えないようにしているからだ」
「私が、選ばれし者ってわけね。で、なんに選ばれたの?」
「運命に選ばれたとでも言っておこう」
「なんじゃそりゃ」
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