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川音が聞こえてきたあたりで、私はぴたりと足を止めた。
頭上から足元に、笹の枝がぽとりと落ちる。
見上げると、クヌギの木の枝に人が腰かけていた。
ウサギ殿である。
「おひさしぶりです、ウサギ殿」
はははっと高い声でウサギ殿は笑った。ぱっと枝に立ってうなずく。
「私の気配に気づくとはさすがだね。父上の様子を見にきたんだろうけど、話はもうすんだよ」
ウサギ殿は年齢、性別不詳の謎めいた忍びだ。
顔を知られないほうが都合がいいからと、草色の布で顔を覆い隠し、身長は童のように低い。
だが身のこなしは父上よりも数段勝り、お頭からの信頼も厚い。
ウサギ殿の素性は誰も知らず、お頭が里のおなごとの間に作った子供だという者もいた。
「竹林で私たちを見ていたのですか? 気づきませんでした」
私は笹の枝を拾いながら、苦笑する。
「星丸は嬉しそうにタケノコを掘ってたね」
「食いしん坊ですから。父上とはなんの話を?」
「特になにも。釣りの腕前を見せつけられただけかな。変わりなく暮らしてるようで、なによりだ」
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