1 奉公先は幽霊屋敷

5/25
前へ
/240ページ
次へ
 ざざざと激しい風が吹き、木々の枝は大きく揺れた。ウサギは涼しい顔で腕組みをして枝の上に立っている。 「里も変わりはないですか?」 「ないよ。気になる?」 「いえ」  ふふふとウサギ殿は笑い、しゅたっと地面に飛び降りた。おとなしく地面にふせていたシロとクロが、尻尾を振りながらウサギ殿に飛びつく。 「なにか困ったことがあったら、遠慮せずに話しておくれ。さらば」  ウサギ殿が一礼し、私も一礼した。  顔を上げた時にはもう、ウサギ殿は消えていた。  犬たちもきょとんとして、まわりをきょろきょろ見ている。  私は川へは行かずに家に戻った。  それから半刻(一時間)ほどして、父上はカゴいっぱいに魚を獲って帰ってきた。 *  それから数日後。  まだ外が薄暗い朝に、私と星丸は山を下りた。  川を小舟で渡って丘を越えると、城下町がある。  私は市場で野菜や花を売り、星丸は薬を売り歩く。 「早く売り切ったほうが、帰りの荷物を持つってのはどう?」  薬を包んだ大きな風呂敷を背に、星丸が賭けを提案する。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加