1 奉公先は幽霊屋敷

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「それならあんたの負けね。いっつも長話して、全部売り切ってこないじゃない」 「情報収集に熱心だと褒めてほしいね」 「可愛いお嬢さま相手に、どんな情報を集めてるのかしら?」  星丸はあるお屋敷のお嬢さまと仲良くなり、お茶をいただきながら偉そうに薬の説明をしているのを、私は知っている。  市場について星丸と別れ、野菜を風呂敷の上に並べていると、顔見知りの野菜売りのおばさんが隣に来た。  私の野菜をのぞきこむ。 「おや、立派なタケノコじゃないか。一つ、いや二つ買わせておくれ」 「いつもありがと、おばさん。そのおいしそうな沢庵(たくあん)と交換というのはどう?」 「もちろんだよ。これはよく漬かった自信作だ。おまけしとくからね」  タケノコはすぐに売り切れて、他の野菜や花もすぐになくなった。  客がすこし引いた頃、友達のよねちゃんが歩いて来るのが見えた。 「ここよ、よねちゃん!」  大声で呼びかけると、私に気づいて彼女は小さく手を振った。  一年ほど前に市場で知り合い、同い年なこともあって、すぐに仲良くなった。
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