1 奉公先は幽霊屋敷

8/25
前へ
/240ページ
次へ
「武家の奉公人なら、ひどく不衛生な場所で寝起きしてるわけないわよね。一緒に暮らしている他の人たちも、同じ症状が出ているの?」  よねちゃんは首を横に振る。 「一緒の部屋に寝てた他の奉公人たちは、平気だったんだって。その、ひさちゃんていう子だけなの」  ちょっと、と隣で話を聞いていたらしいおばさんが、叱るようによねちゃんを制止した。 「もうおよし。余計なことを言いふらすもんじゃないよ」  よねちゃんはびくっとしておばさんを見ると、ごめんなさいと小声で謝って、急いでその場を離れた。  私はすぐに彼女のあとを追って、呼び止めた。 「これ、持っていって。よねちゃんのためにとっておいたのよ」  タケノコを差し出すと、彼女はしょんぼりした顔で受け取った。 「ありがとう。ごめんね、余計なこと喋っちゃって」  ううん、と私は小さく顔を横に振った。 「またなにかあったら教えて。来週もまた来るから」  よねちゃんと別れて売り場に戻ると、おばさんは帰り支度をしていた。  漬物はすべて売れて、残った葉野菜は持ち帰るつもりのようだ。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加