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「お母さん、おはよう~」
「おはようって、あんた早くしないとまた登校班に遅れるわよ!」
「大丈夫大丈夫、私準備早いもん」
「そう言っていつも髪も整えないで! 小6にもなってまったくもう」
舞翔はエアコンが効いた涼しいリビングへ、欠伸をしながら入って来た。
ボーイッシュに短く切り揃えられた栗色の髪が、母、三都子の言う通り、寝癖であちらこちら跳ねており、逆にセットしたようになっている。
三都子は、呆れ顔でダイニングテーブルにトーストを置いた。なんだかんだ優しい母は、舞翔が起きて来るのに合わせて、トーストを焼いてくれる。
舞翔はまずは洗面所へと向かうと、水道管の中で熱されて、ぬるくなった水で顔を洗った。
それから寝癖を直すべく鏡を見る。
大きく円らだが睫毛が短く、一重で日本人らしい目。
形は悪くないのに、薄くてぱやぱやして見える眉毛。
そんな自分の顔が嫌いではないが、男の子みたいだと舞翔は思っている。
実際は丸みを帯びた輪郭と、小さ目の口がいかにも女の子らしいのだが、そこには気付いていないようである。
「ちょっと、結局寝癖そのままなの?」
「いいのいいの、それっぽいでしょ」
舞翔は食卓へと戻ると、テーブルに着いて早々トーストを頬張った。
「あんた、本当に登校班間に合うんでしょうね?」
「もう着替えてるもん、あとはランドセル背負って家を出ればいいだけだよ? 遅れない遅れない」
舞翔は安心してゆっくりと朝食を味わうことにした。
絶妙な焼き加減に、バターが溶けた匂いが鼻腔をくすぐり、口の中が幸せに包まれる。
実に平和な朝。
「あ、いつもの始まる時間だわ! 舞翔、チャンネル変えて」
「ん〜? あぁ、リモコンリモコンっと」
舞翔はパンを持っていない方の手でテーブルの上のリモコンを取ると、ボタンを押した。
ちょうど良く、テレビから情報番組のオープニングテーマが流れ始める。
それを眺めながら舞翔が咀嚼していると、三都子が牛乳をコップに入れて持ってきてくれた。
片手にトーストを持ちながら、もう片方の手でコップを持ってごくりと一口含む。
テレビでは騒がしく何やら中継が始まるようだ。
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