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 魂には重さがある。  これは、科学的に証明されていない俗説だが、魂の存在は古来より信じられてきた。例えば、蝶やカラスなどは死者の魂を運ぶ生き物だとされ、一部宗教では肉体は滅んでも魂は滅ばず、生まれ変わりを繰り返すとされている。  (こう)の目の前をアゲハ蝶が横切った。彼は手で軽く追い払い、上履きをスニーカーへと履き替える。今日はテスト明けで部活が休みとなり、多くの生徒たちが昇降口に集まっている。 「大地(だいち)ー、今日ゲーセン寄ってこぜー」 「ごめん、塾に行かないとだから」 「えー、今日ぐらいいいだろー?」 「そういう訳にもいかないんだよ」  洸は、大地とその友人らの話声が近づいてくることに気づくと、早足で校舎から去っていった。  普段通りであれば、途中まで一緒に帰るはずだった彼らは、親友と呼べるほど仲が良かった。しかし、ここ最近些細なことですれ違っている最中である。  事の発端は、誰かが学校の備品を壊してしまったこと。洸と大地が最後に体育館を出たことや、ある生徒から洸が壊しているところを見たと証言があったため、洸は一時期犯人扱いされてしまった。そのため洸は、大地が自分に全ての責任を負わせようとしていると勘違いし、口論にまで発展した。最終的に無実だと分かったものの、それ以来お互い口を利かず、意地を張り合っている。  自宅まで後少しのところで、頭に水滴が落ちてきた。それはすぐに激しい雨へと変わり、洸は屋根付きのバス停に駆け込んだ。  叩きつけるような雨に遠雷、そして高い湿気。  洸は学ランを脱いだ。ワイシャツはじっとりと汗を吸っているし、靴の中も濡れていて気持ちが悪い。  折りたたみ傘が入っていないかとスクールバッグの中を漁っていると、すぐ隣で若い女性の声が聞こえてきた。
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