第7話

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第7話

f2823ba3-e144-46d3-8656-bd6254b54889           黄金の荊棘(いばら) 第7話 「まだこんな時間か」  月曜、午前5時。  桐嶋は、いつもよりもはるかに早い時間に目が覚めた。  昨日は、これまでの数日間が嘘だったかのように安楽な時間が過ぎ去った。藤堂からも倉橋からも一切連絡がなく、鳴海から『赤坂署の動きなし。以上』という業務メールがきただけだった。  桐嶋には、『動きなし』ということが逆に恐ろしく感じられた。  本当に動きがまったくないのか、なんらかの事態が鳴海に察知されることなく動いているのか、それとも実はすでにこの場所が露呈し、十重二十重に囲まれているということだってありうる。  動きがあれば、それに対処すればいいだけだが、なにもないというのはもどかしいものだと嘆息した。  それとは別に、昨日判明したこともある。  といっても、『Ne tradideris Aurae Noctis』の文字の意味がなんとなくわかったということくらいだ。  最初に、翻訳サイトに入れてみたところ、リトアニア語と自動検出され「ノン・トレーダー アウラ・ノクティス」と、微妙な感じのカタカナ読みが表示されただけだった。  次に、生成AIに投げてみたら「夜風に屈するな」という、よくわからない言葉が返ってきた。解説もだしてくれていたので内容を確認すると、 『Ne』・・・否定の助詞で、「~しない」という意味 『tradideris』・・・「降伏する」または「引き渡す」を意味する動詞 『Aurae』・・・「Aura」の属格で、「そよ風」や「空気」という意味 『Noctis』・・・「夜」を意味する「Nox」の属格 だそうだ。この分割された四つの単語を組み合わせて意訳すると「夜風に屈するな」となるわけだ。 「うまく訳すものだな」  桐嶋は妙な感心をしていた。何度も確認したので、写し間違いはないはずだ。 「学生の時、ラテン語の授業を受けておけばよかった」  今更言っても仕方がないことを考え始める。必修ではないからと外したのは自分なので後の祭りである。  最低限のことはわかったので、そういうものだと自分を納得させて昨日は終了した。
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