第8話

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4e53e21c-091f-4ab8-9d8f-b0ff7dd7710b  栃木県の那須高原サービスエリアで一時休憩。トイレに向かう途中、鳴海が桐嶋に近寄り小声で話し始めた。 「念のための確認ですけど、ウインストンさんは別として、あの3人をどこまで信じるっすか?」 「んー、ターミネーターは信じたい」 「ああ、わかります。見た目だけじゃないですけど、ウインストンさんにすごく献身的なのが伝わってきますもん」 「だよな。あとの二人は保留かな。まだ、全面的に信頼するにはちょっと」 「同じ意見でよかったっす。じゃあ、その方向性で」 「ああ」  車は再び北上。  東北道が渋滞するほどに混むことはめったにない。盆や正月くらいのものだ。エドガーの運転もスムーズだし快適な旅と言える。  平穏な旅路だったらどれほど気が楽かわからない。  鳴海も軽口をたたいていない。おかげで車内は静かなままだ。  長者原サービスエリアで2回目の休憩。体を伸ばしていると倉橋から連絡が入った。 「今、どこですか?」 「ああ、東北道の長者原サービスエリアなんだが・・・どっちだろ?宮城県か岩手県のどちらか」 「長者原なら宮城県ですよ」 「詳しいな」 「あ、発見。ちょっと待ってくださいね」  そう言うと電話が切られた。  桐嶋がスマホの画面を見ながら訝しんでいると、駐車場の奥から手を振りながら歩いてくる倉橋がいた。 「待った。どういうことだ?なぜ、おまえがここにいる?仕事は?」 「やだなぁ、仕事ですよ。昨日、宇都宮で仕事して、金曜に盛岡で仕事があるので移動途中です。あ、移動途中なので今日、明日は大丈夫ですよ?」  倉橋は晴れやかな表情で話しているが、桐嶋は対照的に憮然としている。  しかし、あることに思い至って破顔した。 「出張予定を調整して当てはめたわけか。うまくやりやがったな。おれとしては助かるが」 「どうにかして、ご一緒できないかと考えた結果ですよ」  桐嶋と倉橋が話しているところに、鳴海がソフトクリームを食べながら歩いてきた。 「あれ?倉橋さんじゃないすか。なぜにここへ」 「お、鳴海。おれも同行するのでよろしく」 「は?え?ん?どういうことっすか?」 「こういうことだ」  文化庁の調査官は、普段は研究や政策立案などを担当していることが多いが、現地調査の必要性があれば全国どこにでも出張する。  文化財の指定、保存修理、現状変更等に関する専門的・技術的な事項を扱うなど、現地に赴いて調査をおこなう必要があるからだ。  今回、倉橋が宇都宮に行ったのは、文化庁から宇都宮市に貸し出していた美術品の展示状況確認。  盛岡市に行くのは、文化財保存活用地域計画の作成に関して、現地視察を行うという立派な理由があるのだった。  桐嶋はキャリー達に倉橋を紹介した。倉橋は桐嶋たちの車には同乗せず、自分の車(アルファロメオ)で、桐嶋たちの車の後ろについていくことになった。  長者原サービスエリアを出発した一行は、盛岡インターチェンジで東北自動車道をおり、早池峰山のふもとにある桐嶋の別荘を目指した。  道がすいていたため予定よりも早く別荘の近くまで着くことができた。  途中から、桐嶋が運転手のエドガーに道案内をする。山道を走り、ようやく別荘へと続く道の手前に2台の車が到着した。  その道には杭と鎖で作られたゲートが設置されている。桐嶋が車をおり、ゲートを開けに行く。桐嶋が作業をしていると鳴海もおりてきた。 「桐嶋さん。桐嶋さんが最後にここに来たのっていつでしたっけ?」 「2年前かな」 「だと、誰かがその後に来てますね」 「まさか」 「轍のとこを見てください。2年もたっていたら、もっと草ぼうぼうっすよ」 「・・・確かにそうだな」 「用心した方がいいっすね」  桐嶋は車に戻り、そのことをキャリー達に説明した。倉橋には、鳴海が説明しにいった。車内に緊張が走る。鳴海が戻ったところで再び出発した。
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