174人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん……」
「そう。あら、そんな顔しないでよ。いいじゃない。女性とか男性とか関係なく、明里にパートナー的な人がいてくれたらいいなとは思ってたのよ?」
「お母さん……」
母の本意はまだ分からない。もしかしたら、本当は女性と付き合ってほしかったと思っているかもしれない。
それでも、そう言ってくれることが本当にありがたかった。
だけどーー
相手がフォークだと知ったら、そんな母を不安にさせてしまうんだろうか?
俺がフォークに襲われ掛けた時、母もショックを受けていた。
しばらくの間は、それこそ干渉的になり、俺がどこに行くにも心配でついてきていたくらいだ。
今でもまだ、テレビでフォークのニュースが流れてきたりすると、心配して声を掛けてくる。
四ノ宮さんは何も悪いことをしていない。たまたま彼の二次性別がフォークだというだけ。
寧ろ、フォークなのにケーキの俺を心配してくれる優しさを、俺は好きになったのだ。
だから、いつかは母にも四ノ宮さんの二次性別を打ち明けたいけれど……。
「……またゆっくり話すね。じゃあ、行ってきます」
今日はまだ、言えそうになかった。
そしてそのまま流れるようにして家を出たかったのだけれど……。
「ああ、待って。頂き物の苺がたくさんあるから、持っていって一緒に食べなさい」
「苺?」
聞き返しながら振り返ると、母の両手には、恐らく苺が入っているのであろう白色のタッパーがあった。
「……いや、苺は、どうかな……」
透明の蓋から覗く、真っ赤でサイズも大きな苺は間違いなく美味しいーーと思うのだけれど、味覚を感じない四ノ宮さんに対して、食べ物をお土産にするのはいかがなものかと思わず首を傾げた。
「苺、嫌いな人なの?」
「嫌いというか……」
「嫌いじゃないなら持っていきなさい! 手ぶらでお邪魔するより印象良いでしょ!」
……確かに、手ぶらで行くつもりだった。言われてみれば確かに、手土産があるかないかだったらーーなくても気にしないでくれそうだけれど、あった方がいい気もする。
だとしても、四ノ宮さんに限っては食べ物以外を持っていくべきだろうと思ったのだが、母は苺の入ったタッパーをグイグイと渡そうとしてくる。
いらないよ、持っていかない、と何度か言ったものの、母は意地でも苺を持たせようとする。
脱衣所でいつまでもこんなやり取りをしていたおころで、時間だけがどんどん過ぎて四ノ宮さんを待たせてしまう。
最終的には俺が諦めて、タッパーを持って家を出ることにした。
まあ俺は苺好きだし、このくらいの量なら少し多いけど一人でも食べられるか。
苺……
漢字は違うけど、四ノ宮さんの名前と同じだなあ。
どっちのイチゴも大好きだな、なんて思いながら俺は早歩きで駅に向かうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!