ぐみまくば山

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ぐみまくば山

 ほどなく僕たちは、目的地の入り口に着いた。  でなければ、筆吉も僕も干からびていただろう。そのくらいのじりじりとした猛烈な暑さだった。  それでも一歩入り口に踏み出すと、さぁぁっとひんやりした空気に包まれる。いつもそうだ。だから筆吉も、しぶしぶ来てくれるのだろう。  生き返った!  そう思うこの瞬間は、すごく達成感がある。  伝う汗も、しゅって消えていき熱が奪われる。  ひやひやしたものが、背中を走り抜ける。  筆吉も、ぷるんと身体を震わせると、いつものように僕が差し出した冷たい水をこくこくと飲んで一息つく。  この小さな山は作られたもので、この街のシンボルであるグミの木がぐるりとてっぺん目指して植えられている。  ナツグミという、葉っぱが冬になると落ちちゃう種類で、今ちょうど食べ頃の紅い実がたっぷりついている。  僕はけんきゅうしゃだから、そういうことはきちんと調べてノートに書いてある。というらしい難しい字のひとに、僕はどうやらなっている。  歩きながらトゲに注意して実を取っては口に入れ、しぶっしぶっな甘さを味わう。  しぶっしぶが舌に残って口が自然とおちょぼになってしまうが、そういうところもけんきゅうしゃっぽいなと満足しながら、僕はゆっくり足元を観察しながらてっぺんに向かって歩みをすすめた。  今まで来たのとは、ちょっとまた別のルートをたどる。  わりと低いグミの木の間には、たくさんの木々が上手に配置されて、いい感じで森みたいになっている。公園と名づけられてるくせに、遊具なんてひとつもない。  石畳もあじがあって、古い遺跡あとみたいなのも僕が気に入っているところだ。  さて…。  「やっぱり、ひとつも見つからないな。」   僕は注意深く、筆吉に話しかけた。  「見たのが本当なら、ちゃんとあるはずだ。でも大切なものほど、見えないもんだ。」  筆吉は、なんだか哲学的なことを時々口にする。  えらいがくしゃみたいに。  それは一流のけんきゅうしゃになる僕に、とてもふさわしいように思う。  こんな会話が、ぎゅっと胸をしめつけてきて、筆吉は僕に足りない何かをそそいでくれる。  だから僕のけんきゅうには、筆吉がかかせない。  ホームズとワトソンみたいな。  相棒がいないと、一流のけんきゅうしゃとはいわないんだ。きっと。
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